2012年9月28日金曜日

<乳歯の妖精>とストロンチウム

ストロンチウムは骨に蓄積しやすい性質をもっています。先日、松戸の歯科がこどもの乳歯をあつめ、蓄積しているはず」のストロンチウムの大規模な検査を計画しているという報道がありました。

●きょうどう歯科・新八柱 
http://kyoudoushika.dentalmall.jp/entry_p3.html

この被曝と乳歯集めについてはIEAEとWHOの癒着を指摘し、ICRPのチェルノブイリ事故の過小評価に、警告を発してきたミシェル・フェルネックス医師も以下のように語っています。

------ストロンチウム90はベータ線源で、ホールボディーカウンターでは測定ができない。ストロンチウム90が集まるのは骨の表面で、造血細胞の間近になる。造血機能がうまく働かなくなる危険があり、がんの危険性もある、住民の体内のストロンチウムを測るには、乳歯を集めて保存しておくべきだ。後年になってから、年ごとの汚染状況を知る手だてになることだろう------
ミッシェル・フェルネックス 「慢性的低線量被曝は、何をもたらすか-日本の友人たち、そして医学者たちへ」                
                         (『現代思想2012年7月号 被曝と暮らし 瓦礫・食品・避難生活』)

こうしたとりくみには、前史があります。現在米国には「歯の妖精プロジェクト」という、とてもかわいい名前だけれども...膨大な数の乳歯を集め、ないことにされてしまう原発周辺の健康被害を対抗的に立証していくという運動があるそうです。

Radiation and Public Health 「歯の妖精プロジェクト」 「放射能と公衆衛生」という団体によるものです。

http://www.radiation.org/index.html

また、この活動にはじめて着手したのは、Women's Strike for Peaceという60年代はじめの合衆国でももっとも初期の反核運動といわれている、母親や女性たちの手によるものという事も知りました。 

----母乳や乳歯から検出される放射性物質の死の灰を撒き散らしていた地上核実験の終結を実現した1963大勝利に寄与したアメリカ初の大規模な反核兵器運動「女性のためのストライキ」=Women’s for peaceの手記を、私は読んだことがある。 その女性は、ある朝、行為行動としてケネディ大統領が勤務するホワイトハウスの前で、雨のなかにたっていて「ばかばかしい。なんてくだらないことをやっているのだろう」と思ったという。

何年もたってから、彼女は、核兵器問題の活動家のなかで最も著名だった人物、ベンジャミン・スポック博(世界的ロングセラーの育児書を記した小児科医)が、女性たちの小さなグループが、ホワイトハウスの抗議行動で、雨にうたれて立っているのを見かけたのが、自分にとってのターニング・ポイントになったと語るのを聞いた。その人たちがそれほど熱心になっているのなら、自分もこの問題についてもっと考慮しなければならないだろうと博士は思ったのだ------

Rebecca Solnit “The hope in the dark” レベッカ・ソルニット 「暗闇の中の希望」(七つ森書館)

         
      

                           こどもをまもろう   

このWomen's Strike for Peaceはキューバ危機の折核兵器の使用に反対した抗議行動もします。
のちに 主に共産主義思想などを取り調べる「非米委員会」にもよびだされますが、委員達の尋問を
はなから相手にせず、痛快に相手をやりこめ、おおくの女性、母親たちの喝采をあびたといわれています。


ネバダの核実験場で抗議する、Women's Strike For Peace
“Women Strike for Peace: Traditional Motherhood and the Radical Politics of the 1960s”表紙より

こうした、無名の女性、母親たちによる、前史があって「乳歯あつめプロジェクト」は、核実験による被害から後年、原発周辺の対抗的な「健康調査」へと、うけつがれていったそうです。
一方、合衆国でもこの乳歯プロジェクトに対しては原子力関係側からの「疑似科学」「非科学的」というレッテルと攻撃もあった/あるようです。

それでも元来、低線量被曝、とりわけ内部被曝については根拠となる「科学的データ」がないにひとしい、未踏の領域でもあります。また、先ごろ、文科省によって第二次の土壌汚染調査によって「ストロンチウム」分布図が発表されましたが、「ストロンチウムは半減期が長いため、米ソの核実験由来のものと峻別するのが困難」→「今までも核物質による汚染は蓄積されてきたのだから、大丈夫。たいしたことはない」というような<リスクの相殺>、<リスク一般に換算し、安心させようとする>論調に誘導されるような心象操作が、かんじられます。

いったいぜんたい、どちらが疑似科学なのか。未曾有の事故に対して、これまでなされたことのない、おもいつく限りの「対抗的」な、あらゆる調査をしようとするこころみ。

冷戦期の緊迫した危機と核の恐怖のなかで、はたからみたら、かなり奇妙な行為にみえたことでもあるでしょう。それでも、こどもらの小さなぬけた乳歯を真珠とりのようにせっせと集めてた、無名の女性たち

歯医者の呼びかけもさることながらまずなによりこの乳歯あつめの意味を、を即座に理解して協力に応じた女性たちの一般知性の開花のような状態。そんな過去の「生存」のための叡智がいまうけつがれているように感じます。

-----------以下関連etc------------

●合衆国「歯の妖精プロジェクト」 Radiation and public Health Project /放射能と公衆衛生プロジェクトhttp://www.radiation.org/index.html

●東洋経済オンライン 2012年9月3日http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/d783e637fd9279abf1b0f641ced7803a/page/1/
ストロンチウムによる被曝解明をめざし、歯科医師が子どもの乳歯提供を呼びかけ

●毎日新聞 2012年9月17日http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120917-00000116-mailo-l12
被ばく検査:乳歯で 松戸の歯科医院「子供の健康守りたい」/千葉


  放射性物質ストロンチウム90がカルシウムに似た成分を持ち、歯や骨に取り込まれやすいことから、子どもの乳歯に含まれるストロンチウムを測定し、被ばくの状態を調べる取り組みを松戸市の歯科医院「きょうどう歯科新八柱」の藤野健正所長が始めた。「被ばくを確かめるためにも、生えかわりで抜けた乳歯のうち1本を提供してほしい」と呼びかけている。藤野所長によると、こうした取り組みは全国的にも初めてという。
 ストロンチウムは、発がん性など人体への影響がセシウムよりも大きいといわれるが、体内被ばくを測定するホールボディーカウンターでは検出できないという。そこで、集めた乳歯を精密な測定機器を持つ米国の専門機関に送り、解析することにした。すでに先月50本を送り、現在、結果待ちの状況だ。
 藤野所長は、東京電力福島第1原発事故後の昨年5月以降、3回にわたって福島県内で歯科医療を行うなど被災者の支援活動を続けている。運営する歯科がある松戸市など東葛地域は、周辺より放射線量が高い地区であり「ホットスポット」と呼ばれる。「被ばくの実態をきちんと調査するのは重要だ。原発近くの人だけでなく離れた地域でも、今なら放射線被害が疑われる人に協力してもらえるのではないか」と乳歯集めを開始した。
 昨年12月に福島県浪江町から避難してきた人たちが住む東京都江東区の東雲地区で説明会を開き、協力を求めた。その後、松戸市内の保育園などに協力を要請。先月には、東葛地域の人たちと「抜けた乳歯を保存する会」を設立、ネットワーク作りのNPOの協力も得るなど活動の輪を拡大している。同市に補助金も申請した。
 検査は無料。結果は集計と分析を行った上で、集めた地域ごとに公表する。また高い値が出た場合は、乳歯提供者の追跡検査も考えている。藤野所長は「ストロンチウムによる健康被害は未解明な部分が多いが、調べてみて被ばくしてないことが分かれば安心につながる。子どもたちの健康を守っていきたい」と話している。


*記事では「安心」につながる、とむすばれていますが、実際のよびかけでは「将来、何らかの疾病にかかられた時に補償を求める根拠となりますと書かれています。そういう事だと思います。